先日、中央最低賃金審議会において、今年度の地域別最低賃金額の改定の目安について、答申が取りまとめられ公表されました。
最低賃金は歩合制を採用している方にも適用されます。
歩合制は、働いた時間や固定給に関係なく、成果や売上に応じて給与が決まるため、営業職や運送業(トラック、タクシー運転手)などでの採用が多く見受けられます。
今回は、歩合制の最低賃金と割増賃金の算出方法と留意点についてお伝えします。
最低賃金は、地域別または業種別に、時給で定められています。
そのため、歩合給を時給に換算して確認する必要があります。
【例① 完全歩合給の場合】
歩合給の額:24万円
1日の所定労働時間:8時間
1カ月の所定労働日数:22日
1カ月の所定労働時間:176時間
1カ月の残業時間:20時間
24万円÷196時間(176時間+20時間)≒1,224円
最低賃金額以上である必要があります。
【例② 歩合給と固定給が支給されている場合】
固定給の額:22万円
歩合給の額:10万円
1日の所定労働時間:8時間
1カ月の所定労働日数:22日
1年間の所定労働日数:255日
1カ月の所定労働時間:176時間
1カ月の残業時間:20時間
固定給と歩合給をそれぞれ別に時給に換算します。
【A.固定給の時給】
255日×8時間÷12カ月=170時間(1カ月の平均所定労働時間)
22万円÷170≒1,294円
【B.歩合給の時給】
10万円÷196時間(176時間+20時間)≒510円
【AとBを合計した時給額】
1,804円(1,294円+510円)
AとBの合計額が最低賃金額以上である必要があります。
法定労働時間を超えた労働に対しては、歩合制でも割増賃金が必要です。
時給単価の計算式(月給制の場合)は下記の通りです。
歩合給の金額 ÷ 当月の総労働時間 = 時給額
下記の場合で割増賃金の算出方法をみていきます。
固定給と歩合給の割増賃金は別々に算出し、最後に合算します。
固定給の額:22万円
歩合給の額:10万円
1日の所定労働時間:8時間
1カ月の所定労働日数:22日
1年間の所定労働日数:255日
1カ月の所定労働時間:176時間
1カ月の残業時間:20時間
【固定給の割増賃金】
255日×8時間÷12カ月=170時間(1カ月の平均所定労働時間)
22万円÷170時間≒1,294円
1,294円×1.25×20時間=32,350円
【固定給の割増賃金】
10万円÷196時間(176時間+20時間)≒510円
510円×0.25×20時間=2,550円
【割増賃金合計】32,350円+2,550円=34,900円
完全歩合制にしている場合に、成果がなかったとしても給与をゼロとすることはできず、労働基準法第27条には「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と規定されています。
「一定額の賃金」については、労働基準法において規定がされていませんが、解釈として「本条は労働者の責にもとづかない事由によつて、実収賃金が低下することを防ぐ主旨であるから、労働者に対し、常に通常の実収賃金を余りへだたらない程度の収入が保障されるやうに保障給の額を定めるやうに指導すること。」(昭和22・9・13発基第17号)とされています。
実務としては、労働基準法第26条に規定されている休業手当において「平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」とされていることから、最低保障額の目安として、平均賃金の6割程度の水準を保障することが妥当とされています。
なお、自動車運転者については、厚生労働省の「改善基準告示」(平元・3・1基発93号)で、歩合給が採用されている場合、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上が保障されるよう定めることが求められていますので注意が必要です。
成果が出た分は給与が増えるため、労使双方にメリットがある制度でもありますが、労働時間に応じた一定の保障給の支払いが必要とされ、最低賃金も守る必要があります。
保障給については、労働契約書や就業規則等に明記した上で、支払いが必要となりますのでご留意下さい。